コボルトのお店 FOREST&FORTUNE
魔法の森――
多くの冒険者が挑み、命を落としてきた危険地帯だが、森の入り口や浅層部は比較的安全とされている。
地形は穏やかで魔物の気配も薄く、訓練や実地演習にうってつけの場所。
新人冒険者たちの“はじめてのクエストの場”として親しまれている。
ある朝のこと。
「お〜い! たからもの、いっぱいあるよ〜! いらっしゃいませ〜!」
森の奥から、甲高く、どこか陽気な声が響いた。
冒険者一行は足を止め、仲間たちと顔を見合わせる。
「あれ、コボルトの“おみせ”だな」
「やっぱり。久々に出会えたね」
冒険者たちは笑い合いながら、森の小道を進んでいく。
小さな広場の中央には、毛並みのふさふさしたコボルトが座り込み、手作りの布の上にさまざまな品物を並べていた。
隣には、子どものコボルトも同じように得意げな顔で座っている。
「さあさあ! 今日のはすごいよ! ぼくらがえらんだ、とくべつなたからもの!!」
その言葉通り、布の上には宝石のようにきらめく石、金属の飾り、なぜか骨付き肉の欠片、よくわからないガラクタまで並んでいる。
「これは“静謐のラピスラズリ”。このあたりじゃまず見つからないぞ」
「待って、それって“道標のトパーズ”じゃない? どうしてこんなところに……」
お店に並ぶものは、すべてコボルトが気に入った品物。
そのため、並ぶ品は毎回まったく異なる。
それでも、これほどの宝石が一度に並ぶことは珍しい。
冒険者たちが驚きの声をあげる中、子どもコボルトが胸を張って言った。
「きらきらしてるでしょ! これなんて、いいにおいもするし、かたちもすき!」
「それ、原石に肉汁かかっただけじゃ……?」
小さな笑いが起こるが、どこか和やかであたたかい空気が広がっていた。
冒険者たちがざわつき始める中、親コボルトはにっこり笑いながら、ある一人の冒険者に近づいた。
「くんくん……」
「え? な、なんだ?」
「キミ、いいの持ってるね〜!」
「あっ、バッグの中? 昼に食べようと思ってた……骨付き肉だけど?」
「それとなら交換していいよ! どれでも!」
「……え? どれでも? いいの?」
そしてコボルトが差し出したのは、先ほど本物だと認めたラピスラズリだった。
「じゃ、じゃあ、交換します……?」
おそるおそる肉を差し出すと、コボルトは目をきらきらさせてそれを受け取った。
「やったー! いいにおい! いいにおい! キミ、すっごくわかってる〜!」
横にいた子どものコボルトも、しっぽをぶんぶん振ってぴょんぴょん跳ねていた。
「まじで交換成立した……」
「ちなみに、まだあるよ?」
男が袋からもう一本の骨付き肉を取り出すと、コボルト親子は目を輝かせた。
「ほんと!? それもほしい! こっちも持ってって!!」
差し出されたのは、よくわからない機械の一部だった。
「これはね、森の奥で見つけた、キラキラの部品だよ」
「それじゃないのがいいな……こっちとかどう?」
そう言って指さしたのは、黄色に輝く道標のトパーズだった。
正直、とてもじゃないが骨付き肉と釣り合う品ではない。
「こんなのでいいの? こっちの方が魔力もたくさん入ってるのに」
そうコボルトは言うけれど、よくわからない機械部品より、目に見えて分かる宝石の方が断然うれしい。
「こんなのが良い!」
「変わってるね〜」
コボルトは“におい”や“見た目のきれいさ”で価値を判断しているらしい。
いい匂いのする肉は、とても価値があるものなのだろう。きっと。
帰り際に一人が苦笑しながらつぶやく。
「次からは骨付き肉、大量に持っていこう。あれ、通貨より強いわ」
コボルトのお店がいつ、どこで開かれるのかはわからない。
見つけられるかどうかは、運しだいである。
【イラストレーター】
ノグチマリコ(collo)
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ホームページ:https://hachicollo.myportfolio.com
【文章】
SATO TAKERU

