この場所が歪みの神殿 FOREST&FORTUNE
「おかしい…昼なのに、月が出てるぞ。」
老騎士は銀の兜越しに空を見上げ、低くつぶやいた。
頭上には確かに太陽がある。だが、その隣には満月が浮かび、昼と夜が同時に存在していた。
赤い三つ編みを風に揺らす少女は、石段を駆け上がりながら振り返る。
「間違いない…ここが“歪みの神殿”よ。」
塔は、魔法の森を奥に進んだ先に突如として姿を現した。
まるで忘れられた記憶が、形を持って現れたかのように。
「これは、大昔——大規模探索時代に、各国が手を取り合って建てた神殿なの。」
その時代、財宝と魔道具を求めて、多くの国が競うように森の奥地へ踏み込んでいた。
だが、森の中では衝突が絶えず、血が流れるたびに探索は頓挫した。
そこで各国は、互いの境界を引き、せめてこの場所だけは争いを持ち込まぬ“聖域”として、神殿を築いたのだという。
この魔の森では木も石も数日のうちに苔に覆われ、姿を失う。
それでも、この神殿だけは苔ひとつつかず、まるで時間の侵入を拒んでいるかのように、静かにそこに佇んでいた。その異常さから“歪みの神殿”と呼ばれるようになった。
「この時計、止まってる。」
少女が顔を上げる。
塔に掲げられた巨大な時計の針は、最期の瞬間を指したまま、ピクリとも動かない。
空はなおも揺れていた。
太陽の光が差し込んだかと思えば、ふとした瞬間に月光へと変わる。
「さっきは昼だったよな?」
「いや…夜だったかもしれん。」
老騎士が眉をひそめる。
ここでは、時間そのものが進んでいないのではないか——。
塔の前では、門番の兵士が慌てた様子で手を振っていた。
「中に…何か、いるようです!」
そのとき、塔の中から奇妙な音が鳴った。
——カーン……カーン……。
それは、眠っていた何かが、ゆっくりと目を覚ます音。
少女はそっと開きかけの扉に手をかける。
「きっと、この中で…時が、動き出す。」
古い時代の残響が、
今、歪んだ音を立てて軋みはじめている。
【イラストレーター】
o-maya
イラスト、動画用素材、デザイン、漫画を中心に活動しております。
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【文章】
SATO TAKERU

