オーガは動かない FOREST&FORTUNE
「もう走れない…」
息を切らし、冒険者のひとりがその場にへたり込んだ。
鎧の肩は泥にまみれ、腕には獣の爪痕が深く刻まれている。
追いかけてきたのは名も知らぬ獣の群れ。
すべてを投げ出して逃げて、ようやく撒いたと思った先が、この森だった。
ふたりとも、足がもつれるようにして木の根元に崩れ落ちる。
「…やばかったな、今のは」
「はは、笑えない…宝石袋も落としたみたい」
身体は重く、視界は揺れる。
かろうじて息をしているだけの、虫けらのような気分だった。
だがそのときだった。
──ずしん、ずしん、と地を打つ重い足音が響いてきた。
「…まさか…うそ、まだ来るの…」
それは違った。
茂みから姿を現したのは、巨大な斧を携えた巨人―オーガだった。
その姿を見た瞬間、冒険者たちは絶望した。
戦うどころか、立ち上がることすらできない。
剣も投げ捨て、ただ地面に這いつくばるしかなかった。
斧が振り下ろされるのを、ただ待つしかない。
だが。
オーガは足を止めると、こちらを一瞥し何も言わず、何もしないまま、
その場を静かに通り過ぎていった。
「……え?」
冒険者たちは顔を見合わせた。
息を潜め、耳を澄ます。
だが、もう足音は遠ざかっていくばかりだった。
なぜ見逃されたのかはわからない。
あまりに無様だったからか。
それとも、すでに別の何かと戦ってきたと悟られたのか。
あるいは、ここを通る“資格がない”と見なされたのか。
ただ、確かなのは―
オーガはそこにいた。
通り過ぎただけだった。
それだけで、命が助かった。
【イラストレーター】
ten
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https://x.com/yuki_sansan/
【文章】
SATO TAKERU

