怪しい依頼

五つの国とギルド国不明・国共通深度不明冒険者国家・組織証言

ギルドの仕事は単純だ。

依頼主と冒険者をつなぐ。

依頼主は金を出す。

俺たちは森へ入る。

欲しいものを持って帰れば、報酬がもらえる。

大体は国からの依頼だ。

宝石を集めてこい。

これ以上の大きさがいい。

できれば魔力の高いものを。

そんなものばかりだ。

宝石は魔力を生み出す。

魔力は国を動かす。

だから、いくらあっても足りないらしい。

俺たちからすれば、

金さえ払ってくれるなら何でもいい。

たまに魔道具の回収依頼もあるが、大抵は深層にあるので行ける者は限られる。

あとは珍しい薬草。

魔物の角。

昔の遺跡から石板を持ち帰ってくれ、なんて依頼もあった。

中には、

「そんなもの何に使うんだ?」

と思う依頼もある。

今回もそれだった。

バジリスクの鱗。

掲示板の前で、思わず二度見した。

間違いじゃない。

確かにそう書いてある。

「誰が受けるんだ、こんなの」

隣にいた冒険者も同じことを言った。

バジリスク。

森の深層に棲むとされる魔物だ。

俺は見たことがない。

見たことがある奴にも会ったことがない。

話だけならいくらでも聞く。

巨大な爬虫類だとか。

蛇に近いとか。

四本足だとか六本足だとか。

目を見ただけで身体が動かなくなるとか。

吐く息に毒があるとか。

その辺は話す奴によって違う。

ただ一つ、

どの話でもだいたい同じなのが、

強い毒性を持っていること。

その鱗にも強い毒が残るという。

素手で触るな。

体内に入ったら終わりだ。

死体でも近づくな。

そんな話ばかり聞く。

そもそも深層まで行く時点で命懸けだ。

そこからバジリスクを探して、

見つけて、

鱗を取って、

生きて帰ってこい。

冗談みたいな依頼だ。

だから当然、

報酬も冗談みたいな額だった。

「……桁、合ってる?」

「俺もそう思った」

これはいくらなんでも異常だ。

宝石採取の依頼を何度こなせば、この額になるだろう。

一瞬、

受けてもいいんじゃないかと思った。

一瞬だけだ。

それから、

妙なことに気づいた。

「なあ」

「何だ」

「これ、おかしくないか」

「バジリスクの鱗を取ってこいって時点でおかしいだろ」

「そうじゃない」

俺は依頼書を指差した。

深層まで行ける冒険者を雇う。

しかも、この金額を払う。

だったら普通、

宝石を持ってこいと言う。

深層なら浅い場所では見つからないような宝石もある。

希少な魔道具が見つかる可能性だってある。

それなのに、

わざわざバジリスクを探させる。

しかも欲しいのは討伐証明でもない。

牙でもない。

毒そのものでもない。

鱗だ。

「何に使うんだ?」

「知らん」

「薬?」

「猛毒だぞ」

「毒薬」

「だったら毒腺でも取らせるだろ」

「研究とか」

「だったら学者が依頼するんじゃないか?」

確かに。

依頼書の端を見る。

依頼主の名前は伏せられていた。

ギルドでは珍しいことじゃない。

金さえ預ければ、依頼主を非公開にできる仕事もある。

ただ、

受付に聞けば少しくらいは教えてくれる。

俺たちは馴染みの職員を捕まえた。

「これ、誰からの依頼?」

「言えません」

「そこを何とか」

「言えません」

「国?」

「違います」

それだけで十分変だった。

「研究機関?」

職員は黙った。

「軍?」

ため息をつかれた。

「詮索しないでください」

「気になるだろ。バジリスクだぞ」

職員は周囲を確認してから、

小さな声で言った。

「……美術商です」

聞き間違えたかと思った。

「何?」

「だから、美術商」

「美術商が?」

「そうです」

「バジリスクの鱗を?」

職員は頷いた。

ますます分からない。

絵でも描くのか。

彫刻に貼り付けるのか。

猛毒の鱗を?

「誰だよ」

「それ以上は言えません」

そう言いながら、

職員は最後に一つだけ教えてくれた。

どうやら、

それなりに名の知れた人物らしい。

金もある。

美術品の収集家としても知られている。

そして今回の依頼に、

相当な額を積んでいる。

俺はもう一度、

掲示板の依頼書を見る。

バジリスクの鱗。

何に使うのか。

なぜ必要なのか。

俺にはさっぱり分からない。

ただまあ、

ギルドには時々、

こういう変な依頼が来る。

問題は――

これだけ金額が高いと、

変だと分かっていても、

受ける奴が出てくることだ。

文:ハンバーグ次郎

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