先に言っておく。
俺は森狂いが嫌いだ。
いや、森狂いじゃないな。
最近じゃ、若い連中は邪術師なんて呼んでいる。
黒い外套を着て、木だか骨だか分からない杖を持って、森に向かってぶつぶつ祈っている。
十分、邪術師に見える。
だからまあ、呼び名としては間違っていない。
この前もそうだった。
俺たちは五人で北側の斜面を歩いていた。
古い地図に、昔の石造建築らしい印があった。
運が良ければ魔道具が残っている。
そんな話だった。
ところが道がない。
正確には、途中で木が倒れて塞いでいた。
「切るぞ」
俺が斧を出したら、後ろから声がした。
「やめてください」
出た。
森狂いだ。
二人。
男と女。
どっちも灰色っぽい服を着て、首から木の輪みたいなものをぶら下げていた。
「なんだよ」
「そこは、今日は通れません」
笑ったね。
今日は通れない?
道が塞がってるんだから、切ればいいだけだろう。
そう言ったら、女の方が倒木を見ながら、
「道が閉じたのであれば、それには意味があります」
だと。
「木が倒れただけだ」
「そうかもしれません」
これが腹立つ。
森狂いは、絶対に言い切らない。
全部、森が決めた。
全部、森が許した。
全部、森が与えた。
じゃあ何か?
俺が昨日食った鹿肉も森の許可か?
酒場で負けた金も森の意思か?
そう言ったら、男の方は真顔で、
「森の外のことまでは知りません」
と返してきやがった。
そこは少し面白かった。
まあ、それはいい。
俺たちは木を切った。
森狂いは止めなかった。
ただ、黙って見ていた。
あれも気持ち悪い。
怒鳴るでもない。
殴ってくるでもない。
ただ見る。
結局、その先に遺構はあった。
当たりだった。
小さな石室の中に、魔道具が一つ残っていた。
青い石のついた腕輪だ。
鑑定すれば、かなりの値になると思った。
俺は当然持って帰ろうとした。
するとまた、森狂いがいた。
いつの間に来たのか知らん。
さっきの女だ。
「それを持ち帰るのですか」
「当たり前だろ」
「そうですか」
またそれだ。
俺は腹が立って、
「文句があるなら言えよ」
と言った。
女は少し考えてから、
「ありません」
と答えた。
「森から出られたなら、それはあなたに与えられたものかもしれません」
ほら。
言ってることが適当だろう?
道を切るな。
財宝を取るな。
いや、取っていいかもしれない。
森が許したかもしれない。
何なんだ、お前らは。
だから聞いてやった。
「結局、お前らにも分からねえんじゃねえか」
女は笑った。
「はい」
あっさり言いやがった。
「分かりません」
そして腕輪を見た。
「森は何も説明してくれませんから」
その言い方だけは妙に覚えている。
その日の帰りだ。
一人が崖から落ちた。
助かった。
木の根に引っかかったからだ。
俺たち四人じゃ引き上げられなかった。
森狂いの二人が手伝った。
男の方なんか、手の皮が剥けるまで縄を引いた。
なんとか全員帰った。
森の外へ出たところで、俺は冗談半分に言った。
「森が助けてくれたってか?」
女は首を振った。
「分かりません」
「じゃあ、その木の根も偶然か」
「分かりません」
「俺たちが助かったのは?」
「分かりません」
本当に役に立たない宗教だ。
何を聞いても分からない。
俺が腕輪を売れば怒るのかと聞けば、
「私は好みません」
だと。
森が怒るかと聞けば、
「分かりません」
またそれだ。
だから最後に聞いた。
「お前ら、何が分かるんだよ」
女は森を振り返った。
「人間には、分からないことがある」
それだけ言った。
俺は森狂いが嫌いだ。
財宝に値段を付けると嫌な顔をするし、
道を切れば立って見ているし、
死んだ冒険者を「森へ還った」などと言う。
気味が悪い。
邪術師と呼ばれても仕方ない。
ただ。
最近、あの腕輪を売った。
かなりの金になった。
酒を飲みながら、たまに思う。
あの日。
倒木を切らずに引き返していたら、
俺たちは何も手に入らなかった。
でも、仲間が崖から落ちることもなかった。
どっちが正しかったか。
俺にも分からない。
……ったく。
森狂いどものせいで、
最近、俺までこんなことを考える。
文:ハンバーグ次郎
